こんにちは、綾野です。
先日投稿したシャネル展と合わせて、2021年8月までパリの「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」で行われていましたジャン・ヴァンドームの展示にも行ってまいりました。
Jean Vendome, artiste joaillier 展
ジャン・ヴァンドームは一般的な知名度こそ高くはないですがクリエイティブジュエリーのパイオニアと形容される人物。1960年代に台頭した同世代ジュエラーはアンドリュー・グリマ(Andrew Grima)やアーサー・キング(Arthur King)など他にもたくさんいますが、私はなぜかジャン・ヴァンドームの作るジュエリーに一番胸キュンしてしまうのです。これはもう恋、推し推ししてるぜ!
そして…我が推しの企画展にもついに…圧倒されて…最高だった…好きぴ…
— Ayano | アントワープ在住ジュエラー (@ayano_jewelry9) 2021年7月17日
写真と現物ではいいなと思うものか微妙に違ったりして。(動画のこれは最高にかっこよかったです。)
この時代に名だたるジュエリーは他にもいれどこの人のが1番ぶっささる!なぜか?言語化すべくしばし思考消化しやす pic.twitter.com/y6gplaTtSx
生きてる間に推しの作品約130点が集結した展示があるなんて…ありがとう神よ、これからも徳積んで生きるぞ!ということで個人の嗜好がマルマルモリモリの偏りまくった展示レポートをお届けしたいと思います。
※60-70年代に活躍したジェエラーを包括的に知りたい!という方はこちらのブログをどうぞ
- 展示の構成をご紹介
- 独断と偏見で推し作品を3点挙げます
- どうして彼のジュエリーに惹かれるのか?頑張って言語化してみた
- 最後に:私の写真が下手すぎてジャンの良さを全然写せてないからぜひ公式見て欲しい!!!!!
展示の構成をご紹介
展示会場はこんな感じ。全体的にブラックの内装の中キラリと浮かび上がるジュエリーたち。
大きく3つのコーナーに分けられており、最初のコーナーには1960〜70年代頃の建築やキネティックアートに影響を受けた金属表現が見どころの作品を展示。一番最初のウィンドウには創造的な指輪がまとめてラインナップ。
金属のテクスチャーや構造が面白い作品たちが並びます。
続いてのコーナーではトルマリンやクオーツなど大物の鉱物や宝石を中心に据えたジュエリーがまとまっていました。圧巻。
1990年代の隕石を使った作品も!
このコーナーの中心には有名なロジェ・カイヨワのアカデミーフランセーズの剣(1971年)(the sword of the academician Roger Caillois)が展示されていたのですが、残念ながら私が行ったのは会期が延長されたタイミングでしたので、リヨンのMusée des Confluencesに返還されてしまっていました(涙)。 まぁ、これでリヨン行く大義ができたな、わっはっは。
最後のコーナーは超有名なカニの爪(!?)を使ったネックレスをメインに、異素材を使った作品に焦点を当てたコーナー。まさしくジュエリーの新しい扉を開いているであります。
13歳で叔父の工房に弟子入りし87歳でその生涯を閉じるまで、70年以上の時間をかけて生み出してきた数々の革命的なジュエリーを通じて、彼の人生や哲学をたどることができる展示となっていました。
独断と偏見で推し作品を3点挙げます
ということで私の推し作品をご紹介するのですが、素敵なものがありすぎてダラダラ調べながら延々と書いてしまっていつまでも投稿できなそうなので、苦渋の決断で3つに絞りました。まずはこちらのイヤリングから。
Kinetic Earring(1976年)
当時Victor Vasarelyに代表されるオプティカルアート(錯視による視覚的効果が考慮されて制作された作品)やキネティックアート(動く芸術)が興隆しており、それらからインスパイアされたイヤリングです。写真だとイマイチ迫力が伝わらないのですが、現物はめちゃくちゃかっこよくてまじで欲しい、今日身に着けて帰りたい!と思いました。服は安物白Tシャツでもこれさえ着ければ一生ハイセンスで生きられそうです。どの角度から見てもかっこよく、彼は彫刻も学んでいるので立体で捉えることが得意なのだと思いました。
続いて2点目はこちらのセットジュエリー。
バロックパール、ファイアオパール、カラーサファイアが組み合わせられています(年代不明)。バロックパールとファイアオパールってすべすべしたテクスチャーといい形状といいこんなに相性がいいんだ、さらにオレンジ系のサファイア持ってくるって何なん?この組み合わせを見つけたの天才すぎると本当に感動しました。
最後はこちらです。
Ferret Ring(1984年)
トルマリンのスライスが指にぴったりと沿うように作られたリングはペンダントトップとしても使えます。ジュエリーデザインって出尽くしてるやん、もう新しいものなんて作れなくね?と考えているたるんだ頭を『サボってんじゃねー!!!思考が足りないんだよ思考が!』とグーでぶん殴られるようなデザインです。
横から見るとこんな感じです。リング部分も稼働しネックレスにした際にチェーンを通すバチカンになるようになっています。気になる方は動画にてトランスフォームする様子が映っているものがあるのでググって見てください。この人は右脳と左脳のバランスが最高ですよね。
どうして彼のジュエリーに惹かれるのか?頑張って言語化してみた
ということで自分自身の今後の創作に生かすために、私がなぜジャン・ヴァンドームの作品が好きなのか言語化しておきたいと思います。彼自身、ジャン・コクトーやロジェ・カイヨワなどたくさんの才人と触れ合い刺激されることで制作の幅を広げています。またラリックのことも尊敬していたようです。そういう彼の姿勢を見習い、彼から受けた刺激を消化しきって吸収するための作業ということでご興味ある方はお付き合いくださいませ。
①確かな技術と知識、そしてチャレンジ精神を有している者のみが到達できる“奇抜なのに美しい”という境地
13歳で叔父のジュエリー工房で職人としてのキャリアをスタートし18歳で自分の工房をオープン。その後彼の才能を認めた周囲のサポートもあって彫刻、製図、宝石学を学んでいます。いいジュエリーを作るには①職人技②デザイン力②宝石調達力が三種の神器でありますが、彼は全て持っていたのですな。
その確かな実力があるから、どんなに奇抜なアイディアでも美しいものが仕上がるのです。ダリと通ずるものを感じます(ダリとも親交があったようです)。
美について問われると彼はよくボードレールのこの言葉を引用していたそうです。
The beautiful is always bizarre.
「美は常に奇妙なもの。(Le Beau est toujours bizarre.)」
基礎力にこだわる人はコンフォートゾーンを出ない傾向があるように思いますが、彼は違ってどんどん新しいことに挑戦していきました。従来では使われていなかった素材を己の美意識(オーセンティック)によって取り入れる。この姿勢はまさににアーティスト。
この基礎力+チャレンジ精神の兼ね備えが私が惹きつけられるポイントで、どちらが欠けてもダメなのであります。
②大量生産する気がない攻めたデザインとつるまない自我・自信
当時ジュエリーの工業生産化も進み、同時期に活躍したアーティストジュエラーたちは大量生産のためのジュエリーデザインも行なっていました。しかしジャン・ヴァンドームはその動向はガン無視、そういうジュエラーたちのグループには参加せず、自分のデザインを主に自分の手で作ることにこだわっていたようです。『デザインを思いついてから完成するまで短時間の方がいいものができる』と語り、夜デザインして次の日自分で作るのをルーティンとし約70年のあいだ週6で働いていたそう。
お客様と直接やりとりでき何かあれば自分が責任をとる!という体制で作るものと、誰がどのように売り誰が買うかわからない体制で作るものとでは責められる範疇が違ってきます。後者は安心安全なもの、壊れないことなどリスクをなくすことを優先せざるを得ませんが、前者であれば責任を背負う覚悟のもと一つ踏み込んだものづくりができます(それだけでなく確かな実力も攻めるデザインを支える重要な要素ではありますが)。
己の手の内で自分が納得するものを作る、そういうものづくりへの矜持がつ作品から溢れているように感じます。時代に流されず己の信念をしっかり持って容易につるまない感じもまた魅力的です。
③独特の素材マリアージュが描き出すScene(情景)とロマンチズム
単体の宝石の中にも一つの宇宙はありますが、彼の作品を見ていると、宝石や鉱物を組み合わせることでまるで絵画のように全く新しい情景を描き出すことができるのだと感動します。
例えばラピスラズリとゴールドルチルクォーツの組み合わせはまるで宇宙の中に飛び込んだような気持ちになるし、
https://www.lecolevancleefarpels.com/fr/en/jean-vendome-exhibition-pictures
淡水バロックパールとターコイズを組み合わせればすきっと晴れた空を鳥たちがさっとよこぎっていくかのようです。
https://www.lecolevancleefarpels.com/fr/en/jean-vendome-exhibition-pictures
こちはなぞ見たとたんに私の中で『アンダ〜ザ シ〜』とアリエルが踊りだしましたよね。チャラっちゃっちゃっちゃちゃっちゃっちゃ
彼のジュエリーはディズニーもびっくり、イマジネーションのスイッチを押してくれるのです。
別の展示で見た私のお気に入りのネックレスも
私の語彙ではうまく表現できないのですが、見ているとまるで銀河の中を歩いているような気分にさせてくれたのでした。
きっとこの人ロマンチストだと思う(ヲタの危険な思い込み)。腕の確かなロマンチスト、最高や。まじで好きだな〜!
最後に:私の写真が下手すぎてジャンの良さを全然写せてないからぜひ公式見て欲しい!!!!!
ここまで読んでいただいて大変申し訳ない限りなのですが
写 真 下 手 す ぎ な
令和のクリエイターとしてまじ致命的…
なにはともあれ公式には山盛りのプロによる写真とビデオツアーもございますので、ぜひこちらをご覧くださいませな!
こちらの本も会場に売られていましたよ。お好きだという方はぜひ!
今回の展示の公式パンフ 写真満載なので英語苦手でも楽しめます!
ということでまるでジャン・ヴァンドームへのラブレターのようなブログを締めたいと思います。それにしてもああ〜!リヨンい・き・て〜〜〜〜〜!!
石沼の大先輩ロジェ・カイヨワがアカデミーフランセーズ(フランスの国立学術団体)に選出された際にジャン・ヴァンドームに制作を依頼した剣。持ち手はトルマリン。刃は中空になっていて赤・青・緑のトルマリン、ペリドット、アクアマリン、アメジスト、黒曜石がはめ込まれています。全ての石は(続) pic.twitter.com/m1GzP0nEGn
— Ayano | アントワープ在住ジュエラー (@ayano_jewelry9) 2021年9月18日